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私の11月~手帳から抜粋 [音楽ばなし]


 12月。ついこの間まで夏だったはずなのに、もう街はすっかりクリスマスの装飾に彩られ、あちらこちらに踊るお歳暮や年賀状の文字の中を、人々もどこか足早に通り過ぎていくそんな季節。
 最近、月日の経つのが妙に早い。子供の頃は、もっともっと一日一日が濃密だった。クリスマスや誕生日が来るまでの日々などそれこそ永遠永劫の時のように感じたものだが、今では向こうからもの凄いスピードでずんずん迫ってくる始末なのだから、全くまいってしまう。新幹線同様、季節も日々高速進化をとげているとしか思えない中、10年後20年後は一体どんな事になってしまうのか、考えるだけで末恐ろしい。20代半ばでこんな事を言っているのんびり屋の私のこと、おばあちゃんになった頃には「もうすぐクリスマスね」と思った時、既に世間は節分の豆を蒔いているに違いない。

と、将来の心配はさておき、今日はそんな風に「あっ」という間に過ぎ去ってしまった私のここ一ヶ月を、音楽イベント中心に振り返ってみたいと思う。コンサートが終わった安堵で腑抜け気味ではあったが、それなりに収穫の多い、充実した日々であった。


♪11月2日~3日
 恩師のアキレス・デッレヴィーネ教授来日。仙台でマスタークラスが行われ、私は通訳兼アシスタントとして行動を共にさせていただいた。レッスンを受講された約15人の生徒さん達をはじめ、聴講に訪れてくださったたくさんの方々から
「素晴らしいレッスンで感激した」
「面白くて一時間があっという間だった!」
などの感想をいただく事ができ、大成功のイベントだったのではないかと思う。
 変わりない温かな笑顔。以前に増して深遠で格式高い音楽。厳しい指導の中にも、決して忘れないユーモアとウィット。久しぶりに先生の側で過ごせた二日間は、本当に幸せなひと時であった。
 仙台の恩師、庄子美知子先生のご尽力によって実現した今回の企画。私の尊敬するかけがえのない二人の先生と共に、故郷であるここ仙台でこのような催しを行えた事は、私にとって最高の喜びであり、贅沢だったと思っている。
演奏する上ではもちろん、指導者としても、また通訳をさせていただく上でも学んだ事は多く、改めてこの道の素晴らしさ奥深さを感じることが出来た。


♪11月4日
 菅野潤先生とザルツブルガーゾリステンによる室内楽のコンサートにて、譜めくりのお手伝いをさせていただいた。気軽に引き受けてしまった仕事だったが、蓋を開けてみれば、これがまったく思いがけない大苦戦。…というのも、1メートルにも満たない至近距離で極上のアンサンブルを体感しているのだ。まるで指先に羽が生えているかのような軽やかなタッチ、天上から降ってくる美しい音の粒。うっとりと優美な音の世界に酔いしれる中、無意識に体は音楽に合わせてリズムを刻んでしまうし、「なるほど。このパッセージはこういう指づかいで弾けばいいのか!」などと感心していると、譜をめくる事など忘却の彼方へ追いやられてしまう。
「楽しそうに体を揺らしていたり、慌てふためいたように立ち上がってページをめくったり、拍手の時も満面の笑みで立ってるし、あんな譜めくりの人見たことないわよまったく」(客席の母談)
 譜めくりをする際は、あくまで黒子に徹するべし。音楽や演奏者に過剰に感情移入してはいけない。
 頭では分かってはいても、これがなかなかに難しく……まだまだ譜めくリストへの道は遠いようだ。

♪11月11日
 ブラジル出身のピアニスト、モウラ・カストロ先生のリサイタルを聴いた。プログラムは、シューマンのアラベスク、謝肉祭、ショパンのマズルカ。そしてブラジル音楽の巨匠、ヴィラ・ロボスの作品でブラジルの魂、白いインディオのダンス。
 まず驚いたのが音の美しさだ。確立された脱力奏法による全く力みのないテクニックは、まさに圧巻の一言。そこから紡ぎ出される音楽は繊細でありながら重厚で、更に先生のこれまでのご経験や歴史を感じさせる様々な味わいやエッセンスが加わって、誰にも真似し得ない文化遺産のような演奏であったと思う。
 ヴィラ・ロボスでは、それとはまた違った甘美でソウルフルなラテン音楽の世界をも堪能することが出来、盛りだくさんで大満足の2時間であった。
(後日、通訳としてマスタークラスも少し聴かせていただくことができ、脱力奏法や腕の使い方など、大変勉強になった。ちなみに非常にお茶目でリラックスしたお人柄の先生である。もしかすると、日々の生活態度も少なからず演奏に反映するのかもしれない)

♪11月16日
 渋谷篤先生のコンサート、「寛いでスケルツォを聴く会」に足を運んだ。ショパンのスケルツォ全4曲をはじめ、チャイコフスキーやスクリャービンなど初めて聴くスケルツォもあって、非常に興味深いプログラム。会場では様々な銘柄の日本酒をはじめ各種ドリンクが太っ腹に振舞われ、和やかでリラックスした雰囲気の中、タイトル通り本当に寛いで、素晴らしいスケルツォを堪能することが出来た。
 軽やかで繊細な音色と透明でまろやかな日本酒の味わい。終演後も心地よい余韻が体に残るような、見事な融合だった。
 先日のカストロ先生といい、最近のキーワードはどうやら「脱力」らしい。

♪11月29日
 友人、池田姿ちゃんが所属している4人組ユニット「カトルカール」のファーストコンサート、「Quatre-quarts~chanson et piano 1er concert~」を聴いた。カトルカール、とはフランス語で4分の4拍子の意。ピアノ3人メゾソプラノ1人のメンバー4人それぞれが、個々に活動しつつもアンサンブルを通して成長していけるように、との思いでつけられた名前なのだという。それぞれの持ち味を存分に生かしたソロに、ぴったりと息のあったアンサンブル。演出やプログラムもお洒落だし、4人×2で8種類のドレスと美女たちも鑑賞できて大満足!華やかでとても素敵なコンサートだった。
 それにしても、サムソンとデリラのアリア「あなたの声に心も開く」は本当にいい曲。あれから一週間毎晩お風呂で熱唱しているのだが、この素晴らしいメロディーを「騒音」と言い放つ我が家族は、残念ながら美的感覚が欠如しているのであろう。


♪12月2日
 友人、住田怜美ちゃん門下生のピアノ発表会を聴きに行った。いつも可愛らしくてほんわかした怜美ちゃんなのだけど、今日はすっかり先生の顔になっていて、温かい眼差しで生徒達を見守っている様子はなんだか眩しいくらいだった。怜美ちゃん自身の演奏も最後に聴く事ができて、演奏者と指導者との両立をしっかりと果たしている彼女からとても良い刺激を受けることができたように思う。
 私も最近ピアノを教えるようになり、弾くこととはまた全く別次元の、「教える難しさ」を日々痛感している。まだまだテクニックの確立していない成長途中の子供たち。高すぎる要求は時に逆効果。でもだからといって簡単なことばかりさせていても力がつかないし、そのサジ加減が難しい。その生徒のキャラクターや状況によって、褒めたり渇を入れたり柔軟に対応しなくてはならないし、自分が指導する立場になってみて、私を指導してきてくださった先生方に改めて感謝と尊敬の念を抱かずにはいられない。
 キラキラした瞳でピアノに向かう可愛い生徒たち。ピアノを教えながら、私自身も子供達から毎回たくさんの事を教えられているような気がする。
 まだまだ未熟な新米先生だけど、子供達と一緒に私も成長していけたら、と思う。

♪おまけ

幼馴染の大切な友人たちに、コンサートのお祝い会をしてもらいました。写真はサプライズで出てきたケーキ!本当に嬉しかったです(>ω<)♡有難う!!

 
仲良しのお友達に生まれた赤ちゃんと、念願の初対面!もう1歳で、可愛くよちよち歩き回ってました。美人さんで将来が楽しみ♡ママ、大変だと思うけど頑張ってね!


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p-can♪

 素人ながらに譜捲りって、もはやひとつの技術と云っても過言ではないと思います( ̄▽ ̄)ノ_彡☆
 その昔(大昔)、とある有名なピアニストが、一度沈んだら跳ね上がってこない鍵盤のピアノでリサイタルを開いた際、〝譜捲リスト〟ならぬ〝キーアッパー〟が居たそうな\(◎o◎;;/
 ......ホントかなぁ~└( ̄▽ ̄*;;;;; 
 
by p-can♪ (2007-12-06 20:14) 

yukirdam

>p-canさん
お返事が遅くなってしまってごめんなさい!
本当に、譜めくりってひとつの技術ですよね。邪魔にならないよう出来るだけ遠くからめくるべく、腕も長くないといけないし^^;
キーアッパー!面白いですね~~!
でも確かに海外には(今でも)ひどいピアノがたくさんあるし、有り得るかも…。更に熟練の技術が必要になりそうですね(笑
by yukirdam (2007-12-10 18:45) 

のんのん

お久しぶりです。
私の知人の住田怜美さんのオススメで、私もカストロ先生のリサイタルを聴きに行きました。
何しろ初めてクラシックコンサートですから、気合を入れて、開場30分前に並びました。
なんと!!並んだのは、私一人だけでした。
一番近くで聴こうと、一番前に座りました。なんと!!一番前に座ったのは、私一人だけでした。
はずかシー!!
でも、行ってよかったです。
一つだけ、行動が、理解できなかったのが、演奏が終わり、お辞儀をし、歩いてステージの隅に行って、戻ってくる。
どういった意味なのでしょうか?
by のんのん (2007-12-15 23:16) 

yukirdam

>のんのんさん
カストロ先生のコンサート、のんのんさんもいらしてたんですね。味わい深い演奏で良かったですよね^-^
>一つだけ、行動が、理解できなかったのが、演奏が終わり、お辞儀をし、歩いてステージの隅に行って、戻ってくる。
どういった意味なのでしょうか?
あはは。確かにそうでしたよね!
普通終演後は舞台袖に一度戻って、それでも拍手が鳴り止まなければ再度出て行ってお辞儀をしたりアンコールを弾いたりするものなのですが(カーテンコールが多いほど嬉しいもの)、多分カストロ先生の場合は、おそらく袖にどなたか関係者の方がいらっしゃって、まだ袖に入りきらない内に、「まだ拍手が鳴ってるので、また行ってください」みたいに促されていたのではないか…と思います(笑 
by yukirdam (2007-12-18 02:05) 

雅楽太

「ショパン」1月号のコンサート評に、10月の王子ホールの松坂さんのリサイタルの記事が載ってましたね。買って読みました(笑)

「ドビュッシーで本領発揮」ふむふむ。
門外漢のわたしにはわからないのですが、ご本人にはこの評価はいかがなんでしょうか?「よくわかってくれてる!」なのか「わかっちゃないね」(とは思っていても口には出せないでしょうけれど・・・笑)なのか、気になるところです。

1月にまた松坂さんの先生のピアノセミナーが仙台でありますね。
今度は須田真美子先生。また松坂さんは通訳を・・・ととと、通訳はいらないですね(爆)
今度も弟さんが受講されるそうですが、「頑張ってください!」とお伝え下さい。
by 雅楽太 (2007-12-21 17:56) 

yukirdam

>雅楽太さん
書き込みありがとうございます^-^
批評、早速読んでくださったんですね!
>ご本人にはこの評価はいかがなんでしょうか?
メインのドビュッシーを認めていただけたのはとても嬉しかったです!新人ということで、前半の曲についてももうちょっと甘口評価だったら良かったのですが(笑)、細かく指摘していただけてとても勉強になりました。
須田先生のセミナー、1月にありますね♪
さすが雅楽太さん!情報がお早い!!
弟はまだ全然曲が出来ていないようで、間に合うのか心配です^^;
by yukirdam (2007-12-25 02:50) 

p-can♪

 お元気ですか~♪♪♪\(o ̄∇ ̄o)/♪♪♪

 今年は大変お世話になりましたm(_"_)m♪♪♪
 また来年も宜しくのほどお願い申し上げます( ̄▽ ̄)ノ_彡☆
 では良いお年をお迎えくださいませ~♪\(^ω^\)( /^ω^)/♪♪♪
 
by p-can♪ (2007-12-31 18:22) 

yukirdam

>p-canさん
明けましておめでとうございます。
こちらこそ、去年は大変お世話になりまして、どうも有り難うございました!
今年もどうぞよろしくお願いいたします♪
by yukirdam (2008-01-01 17:23) 

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